こんにちは、しょーいです!
翻訳フォーラム・イベント企画担当の深井裕美子さんから、「有料セミナーだけど内容書いちゃってOKです!」的な許可をいただきました!
翻訳フォーラムの皆様には毎度頭が下がります……m(_ _)m
というわけで、1ヶ月近く経ってしまいましたがアーカイブ終了後も大事なポイントが分かるような詳細レポを書きました。
↓簡潔ver.レポ:フリーランス翻訳者1年目の私が『翻訳フォーラム式辞書デー2022』に参加しました! はこちら こんにちは、しょーいです! 2022年1月29日(土)、『翻訳フォーラム式辞書デー2022』に参加していました。 具体的な内容は、翻訳フォーラム公式ブログやTwitterまとめをご覧ください。 翻訳フ ... 続きを見る
参考フリーランス翻訳者1年目の私が『翻訳フォーラム式辞書デー2022』に参加しました!
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本記事はテーマごとでまとめているため講演順にはなっていません。ご了承ください!
辞書とことばとの向き合い方を考える
みなさんは辞書について、どのような認識をお持ちでしょうか。
「辞書はわからない言葉を調べるもの」という、辞書と初めてであったころの認識そのままという方もいるかもしれません。
何を隠そう、私がそうだったから!
小学生のころのまま!←
しかし、翻訳者(ことばを仕事にする人)としては認識を更新しなくてはなりません。
井口耕二さんによれば
翻訳の辞書引きには二種類あります。一つは意味を把握するためのもの。もう一つは表現するための辞書引きです。
翻訳は「原文の内容をターゲット言語で表現する」という性質上、表現するために辞書を引くことも多々あるわけです。
母語であるからこそ無意識に使っている日本語に対し、
「あれ、この使い方で大丈夫?」
「この表現は適切?」
「もしかして一般的な表現ではない?」
と気になったらすぐ辞書に手を伸ばす。
違和感や疑問をスルーしないで地道に潰していくのも仕事のうちだと改めて感じました。
ことばの感性を磨くには?
とはいえ、ことばに対する感性が鈍っていたら違和感センサも動作しないわけで……。
ことばの感度を高めていくためにも、辞書引きの習慣化は欠かせません。
そう、辞書引きの目的の1つは「表現を豊かにする」こと。
高橋さきのさんによれば
翻訳において辞書を引く目的は、英語表現の『森』と日本語表現の『森』を、それぞれ厚みのあるものにしていく作業(森がわかりにくければ生態系でも可)
心の底までずしっと響きました。翻訳業を営む上では根っこになるお言葉!
森という例えが「なるほど……!」としっくりきたんです。
英語表現の『森』と日本語表現の『森』、どちらか一方だけではなく両方が有機的に広がった”生きた”ことばの生態系を作らないといずれ枯れてしまいます。
仕事としての翻訳はことばのアウトプットに偏りがちです。
あってはならないことですが、忙しさに負けて手癖で仕事をするようになってしまうとなおさら。
でも、果実を収穫してばかりだといずれ実らなくなるように、アウトプットだけの仕事なんてないわけです。
自分の中にことばを溜めておかないと、森は箱庭サイズのまま。
原文以上に広いことばを溜めておかないと、いずれ箱の壁にぶち当たって表現できなくなります。
深井裕美子さんのお話、
自分がコントロールできることばしか使えない
というのはまさにそのとおり。
私自身、思い返してみなくてもほぼ毎日
「言いたいことは分かった。でも日本語でこれなんて言おう……」
という嘆きをくりかえしています(T_T)
ことばの”つながり”がない死んだ森になっていたわけです。
豊かな森をこれから育てなくては……!
高橋聡さんの場合、
森の中で花を摘んだりキノコ採ったりしちゃう(笑)
だそうです。ことば愛が伝わる表現ですね。
長くなったので一旦まとめますと
- 辞書を引くときは「訳語を探す」「調べたいことを拾う」スタンスでは不十分
- 知っていることと使えることの隔たりをなくすような辞書引きをする
学童の時分から染みついた癖と意識を矯正するのは骨が折れるものの、今回のセミナーでは翻訳者として辞書を引くポイントもしっかり解説してくれました。
辞書引き、いざ実践!
というわけでみなさんお待ちかね!
ことばと仲良くなるための辞書の使い方ポイントをまとめました。
辞書の読みどころ
結論から言えば、項目全部読む、です。
英英、英和、和英、国語、類語、何であろうが。
ことばの意味以外にも見どころはたくさん。
- 文法・語法
- 共起する前置詞
- 用例(斜体にも注目)
- 類義語
- 文型表示
- コラム
時間がかかるのは承知で実践してみました!
その感想は……
頭の中でことばが溶けてつながっていく感覚!
今までは森じゃなかったんですよ。木と木が何のつながりも持たずに立っているだけ。
ことば同士の関係性やつながりが非常に弱かったんですね……。
「知識が頭に突き刺さっている」とでも言いましょうか。
ことばが仕切りだらけの引き出しに詰め込まれているイメージです。
この仕切りを取り外すには、高橋さきのさんのお話が重要でした。
類義語を必ず見る。書き手が何を考えて文章を書いたかが見えてくる。ことばのネットワークも広がる。
実践したところ、意味にこめられたプラスマイナス、下位語と上位語を軸にした関係をぐっとつかみやすくなりました!
ことばは単体で成り立つものではないからこそ、「意味を調べておしまい」ではなくネットワーク化しないと使えるようにはなりませんね……。
翻訳における辞書引き
翻訳で活躍するのは和英辞典と英和辞典! 原文をターゲット言語に置き換えればOK!
言語ごとにもつ性質があるので、単語の置き換えでは同じ意味にならないことも多々あるわけです。井口耕二さん曰く、
英語は神の視点になりがちですが、日本語は話者がにじみがちです。原文(ここでは英語)は事実を述べているだけなのに、日本語にすると自分と他者の対比になるのでニュアンスが変わってしまう。
スタートはいつも原文。
原文の言わんとしていることを正確かつ明確に理解するために、
まず原文と同じ語の辞書を大事にする
と深井裕美子さんのお言葉。
日英翻訳なら国語辞典、英日翻訳なら英英辞典ですね。
原文の解像度を高めてからが訳語探しのスタート!
訳語を決めるに当たって考えるのは意味だけではありません。
- 意味
- 堅さ
- 単語の繰り返し
- 文の長さ
- ニュアンス
- 呼応
- etc......
色んな角度から検討します。これはバイリンガル辞書だけでは苦しいわけです……。
さらに、文字ではイメージしづらい情報なら画像検索やマップから視覚的に捉えていきます。
モノリンガル辞書に戻ってことばの意味(プラス/マイナス/ニュートラル)を確認するのも忘れずに。
三者三様ならぬ四者四様の実演でしたが、根底にあるのはことばを一対一対応のものではなく多面的に捉えていく試みそのものでした!
辞書で学ぶ
この項では辞書を使ってことばの森を育てる方法を紹介します!
1. 用例研究
高橋聡さんからは『ビジネス技術実用英語大辞典V6 英和・和英』(通称「うんのさん」)を活用した用例研究方法をご紹介いただきました。
EBWin4に海野さん自らつけて欲しいと依頼した機能が「☑すべての項目」を表示する機能。
本辞書に収録されている用例を一気に表示できます。
単語を検索
↓
☑すべての項目を表示
↓
用例を上から下まで確認する!
英単語のもつ意味やニュアンスを理解するにはもってこい、とのこと。
ただし、処理は重いので用例研究のあとは☑すべての項目表示をオフにしましょう。
うんのさんの辞書はジャパンナレッジでも使えますが、それとは別にCD-ROMで欲しくなりますね……次に買う辞書はこちらかな。
直販サイトから購入すると安価です!
2. 用例カード
高橋さきのさん紹介の方法は「用例カード」を作ること。
大久保克彦さんが(なんと!)無償提供してくださっている『青空文庫 用例カード 作成キット』で簡単に作れます。
できあがった用例カードを辞書の語義に従って分けていくと、その語の全体像が見えてきます。
いくつもの用例に触れることで、英語と日本語を「一対一対応」で考えてしまう癖から抜け出せるんですね。
また、このときに使う辞書は大型・中型の辞書!
小型の辞書は語義の解説が簡潔なので、用例カード練習には向かないそうです。
こちら、実践したらレポ記事を書きたいと思います。3月中には……!
3. 辞書引きの習慣化
ことばへの感性を高めることが森の土壌づくりだとしたら、語いそのもののストックを増やすことは木を植えることです。
深井裕美子さんによれば、語いを増やす近道は
普段から目に入るもので分からないことは残さない
つまり辞書引きを習慣にすること!
スマホ、タブレット、パソコン、Kindleと自分が使うありとあらゆる端末に辞書アプリをインストールするのです!
特にKindleはアプリでも専用端末でも、単語長押しで辞書が引けて便利。
読書の手を止めずにサクサク辞書引きできるので、絶対インストールした方が良いです!
辞書環境の整え方
現在の辞書環境は実に多様です。
形態一つとっても、電子辞書、アプリ、紙、オンライン、辞書ソフト+共通データ……多様も多様!
辞書環境を統一できればラクチンなのですが……もはや無理です。
諦めて色んな辞書を使いましょう、
はじめての辞書環境作り
「今、辞書環境を1から構築するならどうするか?」を高橋聡さんが徹底解説してくださいました!
ポイントは以下の通り。
- まずはオンライン辞書を活用する
- 特に英英は無料で充分なほど!
- 無料オンラインで足りない辞書を有料で補う
- EPWING
- 有料オンライン
- アプリ
- 紙
物書堂はセールを活用する
Mac/iOSアプリ『物書堂』で必要な辞書はほぼまかなえます!
とはいえ、全て購入するとなるとそれなりのお値段……。
そこで、セール期間のまとめ買いがオススメです!
4月に開催されることが多いです。
私はセール情報を逃さないよう、Twitterで物書堂さん(@monokakido)をフォロー。
さらにGoogleアラートで「物書堂 セール」を登録!
万全の布陣で臨んでおります。
紙辞書を軽視してはいけない!
実は紙でしかない辞書が意外とあります。しかも紙辞書は増える未来しかありません。
旧版を捨ててはならないからです。
辞書は版が変わると、ことばの分類や注釈も変わることがあります。 新旧比較して使えるのでキープしておきましょう。
余談:しょーいの辞書環境構築について
私の辞書環境はと言いますと……スペース最優先です。
(↑今はディスプレイが1台増えました)
リビングの隅っこで仕事をしていますので、仕事の書類や紙辞書を置くための物理スペース確保に四苦八苦しているのです……。
デスク隣の本棚1台分が現実。
物理スペースは紙でしかない辞書のために使いたい!
そこでアプリとオンラインをフル活用しています。
参考にしたのは miu7200 (Twitter:@miu7200)さんのnoteでした。
続・これから辞書環境を構築する人のためのiPad講座〜実践編〜
一から辞書環境を作りたいという方、大いに役立ちますのでご一読を!
まとめ:自分の語いをアップデートする
大ボリュームのセミナー内容、一部でも伝わりましたでしょうか。
セミナーを見逃した方、内容を復習したい方のお役に立てていれば幸いです!
私が意外に感じたのは、みなさん類語辞典を想像以上に引かれていた点。
高橋聡さん曰く
自分の中の語いを刺激する
ために引くとのこと。
この”自分の中”がポイントだと実感しました。
自分の中に無いものって類語辞典を眺めても刺激されないので、感じ得るものが少ないんですよね……。
普段からいかに自分の中の語いを溜めておけるかが翻訳の土台になっていきます。
そのために、まずは複数の辞書引き(読み)を習慣化したいところ!
最初のうちは翻訳スピードががくっと落ちますが、地力づくりの時期と捉えて忍耐強くことばと向き合っていきますね!
最後になりましたが、翻訳フォーラムの皆様に改めて御礼申し上げます。
翻訳者・翻訳者志望の方に役立つ情報満載の翻訳フォーラム公式サイトはこちら!